【ブーケ】禁断情事:執事とお嬢様 シナリオ公開(10)
- 2017年02月5日
- bouquet
お待たせいたしました!
ドラマCD「禁断情事:執事とお嬢様」のシナリオ公開を更新です☆
今回も正海春人先生が読みやすく、小説風に書き換えてくださってますよ☆
通常版出演
平井達矢/TOSAKA/神月あおい/鞠男.net/笹崎こじろう
ステラワース限定版出演
平井達矢/TOSAKA
連動購入特典出演
平井達矢/TOSAKA/鞠男.net/笹崎こじろう
Part10「お互いの本心」
遠山が部屋から出て行くと、小林と二人になった。自室で小林と二人きりになるのは日常的にあることなのに、今日は空気が重かった。まるで知らない人と一緒にいるような気まずさがある。こんな感覚は初めてだった。
小林がここを出ていくことについて尋ねると、表情に焦燥の色を浮かべた。けれどそれは一瞬で、すぐにいつものポーカーフェイスだ。淡々とした口調で辞めるのは私を花沢さんに預けてからだと言ったのだ。
「ずっと一緒にいるって言ってたのに……嘘つき」
「申し訳ございません。ですが……守ってくださる方がいるなら、私は不要です」
そんなものなのだろうか。一緒にいられなくなってもこの屋敷に執事としていればいいはずだ。以前、小林はこの仕事を辞めたいと思ったことは一度もないと言っていたのに。
小林の気持ちがわからない。けれど、どうにもならないことはわかっていた。私は苛立ちに任せて小林にグラスを向けた。
「だったら、出ていく前にお酒くらい付き合ってよ」
「……わかりました。一杯だけなら。お嬢様とお酒を酌み交わすことも、これが最初で最後でしょうから……」
迷いながらも小林はグラスを準備した。二つのグラスにウィスキーが注がれると、お互いに言葉なく手に取った。
誘ったのは私だったけど目を合わせる気にはなれなくて、琥珀色の中に浮かぶ氷を見つめていた。
「それでは、お嬢様のご結婚を祝して……」
「…………」
小さく響く乾杯の音。特別な想いを寄せる人と初めて酌み交わすお酒なのに、切なくてたまらなかった。
小林は一口お酒を飲むと、黙ったままの私に目を向けた。
「まさかお嬢様がこんなにお酒を召し上がるとは思っていませんでした。お酒の力を借りてまで、あなたは何を忘れようとしているんですか?」
「……何も」
「何でも私には話してくださるんじゃなかったんですか?」
本当は全てを言ってしまいたい。
結婚なんてしたくない。小林に傍にいてほしい。けれどそれを今は、素直に言えなかった。
「……あなたにも言いたくないことはあるわ」
「さようでございますか。最後の最後まで、お嬢様の相談も我儘も聞いて差し上げたかったですが……どうやら私の信用は落ちてしまったようですね」
「私が知らないところで辞めようなんて考えるからよ」
「ごもっともです。たしかに私はお嬢様に知られないようにしていたかもしれません」
小林はそっと頭を下げた。「申し訳ございません」と、いつもの謝罪。本当に悪いと思うなら今からでも撤回するなり、私が納得できるまで辞める理由を説明してくれてもいいはずだ。私はどうにもならない気持ちをぶつけるように、冷たく言った。こんな風に誰かに向かって嫌な気持ちを抱えたまま、言葉を向けるのは初めてだった。
「悪いなんて、思ってないくせに……!」
「そんなことはありません」
小林の声が耳に入らない。どんなに「違う」と言われてもそれを受け入れることができなかった。
止まらない。苛立ちも、そこから生まれる暴言も、嫌な態度も。
「本当は私のお守から解放されたかったんでしょ?」
「違います」
「私なんてさっさとお嫁にいけば良いって思ってるんでしょ?」
「違う!」
小林が、怒鳴るように言った。初めて聞くその声に、私は身を硬くした。同時に襲ってくるのは、後悔と悲しみだった。
想っている人に、何年も私の傍にいて見守ってくれている人に、私はなんてことを言ったのだろう。なんて顔をさせてしまったのだろう。
小林は悲痛に満ちた表情だった。普段、手袋をした手で顔を触ることなんて絶対しない小林が、その手で隠すように顔を覆い、明瞭な声で話すいつもの声は震えていた――。
本日のシナリオ公開はここまで☆
次回更新をお待ちください☆
※製作上の都合等により、実際に収録される内容とは異なる場合があります。予めご了承ください。
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