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【淫魔】一途な誘惑・多情な誘惑 シナリオ公開(1)


柊三太さん出演ドラマCD「淫魔:一途な誘惑・多情な誘惑」(9月28日発売予定)シナリオ公開を本日より開始いたしました!

今回も、プロローグをまるっと公開です!

 

 

暗闇に響くは重く鈍い秒針の音――。

寝室で眠る“あなた”に気付かれぬよう、一途な淫魔は風の音に似た小さな音を立て静かに現れた。

 


「なんてかぐわしい精気なんだ……」

一途な淫魔は部屋に降り立つなり、胸いっぱいに息を吸いこみ、目を瞑る。

少し遅れて、多情な淫魔も風の音に似た音を立てて姿を現した。

「んー? 何してるんだい、こんな所に突っ立って」

多情な淫魔は一途な淫魔に近付きながら、ベッドで眠る“あなた”を見遣る。

「何故お前が……! まさか、彼女の精気に引き寄せられてきたのか?」

一途な淫魔は声のした方を振り向き、怪訝な顔をした。

「ってことは、君も? すごいよね、彼女の精気。こんなに甘くかんばしい香りの精気は久々だよ」

「私はこんな精気の人間を見たのは初めてだ。そうそういるものではないだろう?」

「まぁね。数多くの女性を相手にしてきたつもりだけど……俺もこんな精気の持ち主は初めてだよ」

「そんな多くの相手と? ……まったく、呆れる」

一途な淫魔は多情な淫魔の言葉に溜め息をついた。

「そう? スタイルは人それぞれだよ。色んな精気の人間がいるんだから、たくさん味わってみるのもまた一つってね」

「ふぅん……そんなものか」

しばし考えたものの、結局、一途な淫魔は多情な淫魔を理解することが出来ないようだった。

「そうそう。で? どうして彼女を起こさないの?」

「目覚めるのを待っているのだ。無理に起こしてはかわいそうだ」

「えぇ? そんな……待ってるだけじゃ何時間かかるかわからないよ」

「だが勝手をしていい理由にはならない。精気をくれる人間には、敬意を払わねばならん」

「ふふっ、ははは……相変わらず頭が堅いねぇ、君は」

一途な淫魔の生真面目さに思わず吹き出したあと、多情な淫魔は一途な淫魔を一瞥する。

「そんなつもりはないのだが……堅い、だろうか……?」

少し考え込むようなしぐさを見せて、一途な淫魔は視線を床へと落としたその時だった。

「ん……」

“あなた”は吐息に近い声を漏らし、小さく身じろぐ。

「おっと、どうやら彼女が目を覚ましたみたいだよ」

多情な淫魔は嬉々として、“あなた”を見ている。その視線に気が付いた“あなた”は、はっと小さく息を飲んだ。

「あ……すまない、騒がしかったか」

一途な淫魔は心底申し訳なさそうに“あなた”に頭を下げる。

一体、自分の身に何が起きたのか理解が出来ない“あなた”は、起き上がると彼らと距離を置くように後ずさった。静かな空間にベッドの軋む音と“あなた”の布団の音だけが響く。

「そんな顔しないでくれ。驚かすつもりはなかった。私たちはお前に精気を貰いに来ただけだ」

一途な淫魔の丁寧な説明を受けても“あなた”は一向に彼の言っていることを理解することが出来ずにいた。それもそうだろう。彼の言っていることは、人間にとって要領を得ないことだった。

「こらこら、いきなりそんなこと言われてもびっくりしちゃうよ。ちゃんと順序よく説明しなくちゃ」

多情な淫魔に言われて、一途な淫魔は口をへの字に曲げる。多情な淫魔は一途な淫魔から“あなた”に身体を向けるとにっこりと微笑んだ。

「あのね、俺達は淫魔なんだ。淫魔っていうのは……人間の出す精気を好む、魔物に属する種族だね」

「精気は人間が快楽を得た時に発するエネルギーのようなものだ。それは淫魔にとってはどんなものより抗いがたい魅力を持っている」

多情な淫魔に続いて、一途な淫魔も補足する。

「言葉で説明するだけじゃ、わからないよね。 ねえ、おいで……どんなものか教えてあげる」

そう言って、多情な淫魔は“あなた”の肩を突然抱き寄せた。その瞬間、“あなた”の身体は固まる。しかし、多情な淫魔はそんなことを気にせず、“あなた”の頬にキスをした。

「ね、今少し精気が濃くなったよ。わかるかな、自分が俺に触れられて感じたのが……」

多情な淫魔の言っていることがわからずに“あなた”は怯えの色を濃く滲ませる。

「こうやって、お前と交わることで私達は精気を貰う」

一途な淫魔の言葉に彼らが自分に何をしようとしているのか悟った“あなた”は彼らから逃げようと思ったものの、上手く動くことが出来ずにいた。その代わりに少しだけ後ずさる。しかし、先程後ずさった所為でこれ以上後ろに下がることは出来なかった。

「ああ、ごめん。驚いたよね。そんなに震えないで。……あのね、君の精気は他の誰とも比べられないくらい、俺達を引き寄せるんだよ」

多情な淫魔は“あなた”を落ち着かせようと甘く囁く。

「私はお前ほどの精気の持ち主を他に知らない。そう……至高の存在だ」

一途な淫魔はうっとりとした表情を浮かべ、“あなた”を見つめるが、“あなた”はそれすらも恐ろしくなった。

「君のことが気になって仕方ない。……強く欲しいと思う」

多情な淫魔は思いの丈を“あなた”にぶつけるけれど、“あなた”の耳にはほとんど届いていなかった。“あなた”の思考を占領しているのは、どうやってこの場を乗り切るかということだったからだ。

「これが……女性を欲する気持ちなのか。この胸が苦しくなるような感じが……」

一途な淫魔は胸に手を当て、切なげな表情を浮かべている。

「あれ、今頃気づいたの? だから俺達はこんなにも彼女に惹かれているんだよ」

多情な淫魔は一途な淫魔の言葉に驚いたように彼の方を見た。

「こんな気持ちになるのは初めてなんだ、理解できなくて当然だろう。お前と一緒にするな」

「まぁね。お堅い君がそう簡単にわかるはずもないか。……じゃあ理解したところで、彼女に俺達を選んで貰わなくちゃ。ね?」

多情な淫魔に同意を求められたところで“あなた”には答える術がない。曖昧な表情で“あなた”は彼らを交互に見た。

「いいか、彼女を欲するのならば、尚更彼女の意思を尊重しなければ。私達に精気をくれるかどうか、決めるのはお前だ」

「……わからない」

一途な淫魔に言われて、“あなた”は首を左右に振り、小さくつぶやく。

「うん、急過ぎてわからない気持ちはわかるよ」

「それでも、私はお前が欲しい。考えてはくれないか」

「俺も……君を前にしては平静を保ってはいられない……」

「私達のどちらかを選んで欲しい」

「どうか、俺達を求めて……? 君の目には、今の俺たちは理想の男性として映っているはずだ。受け入れることはそう難しいことじゃないでしょ」

口々に言う彼らに“あなた”はあからさまに困った顔をする。

「選べない……」

そう“あなた”は小さく答えて、再び首を振った。

「それとも、もう誰か心に決めた相手がいるのか?」

「えぇっ、それは少し……いや、かなり気にくわないな……。俺たちを差し置いて、そんな人間がいるのかい?」

「そんなことはないけど…… 」

“あなた”は言いづらそうに口にする。それを聞いた2人の淫魔は安心したように微笑んだ。

「ああ、よかった。もしいるって言われてたら、君を鳥かごの中へさらってしまうところだったよ」

「お前……自分は色んな人間の精気を吸っているくせに、彼女相手にはそんな独占欲を見せるのか」

一途な淫魔に非難され、多情な淫魔は含み笑いを漏らす。

「ふふっ、彼女については結構マジだから。他の子とはちょっと違うみたいだ」

「そんなものなのか。やはりお前はよくわからないな」

「そういうことだから、俺は君のこととても大切にするよ。どう?」

問われて、“あなた”はかぶりを振った。2人のうちのどちらかを選べるわけがない。第一、どちらかを選びたいなどと思っていないのだ。

「ダメか。うーん、どうしたものかな……?」

「だが選んで貰わぬことには、精気を吸うことは出来ない」

「ちょっと強引に行くのも一つの手だと思うよ?」

「絶対にダメだ。彼女に選んで貰わねば」

「そうすると……もっと俺達のことを良く知って貰う必要があるかな……」

「そうだな。彼女はまだ、私達のことを何も知らない」

「実際にセックスしてみて、身体の相性が良い方を選んで貰おう」

とうとうその言葉を口にされたと思い、“あなた”は緊張で顔をこわばらせた。

「何も怯えることはない。私達は決してお前に危害を与えたりはしない。ただ少しだけ、私達のことを知って欲しい」

「うん、君が本当に嫌だと思うことを、するつもりはないよ。安心して」

“嫌だと思うことをするつもりはない”と言われて、“あなた”はようやく少し落ち着きを取り戻しつつあった。
彼らの言っていることを理解したということを示す為に、“あなた”は頷いて見せる。

「ありがとう……。お前が至上の快楽を得られるよう、努めよう」

「君に極上の時間をあげるよ。だから……全てを俺達に委ねて……」

彼らは満足げに言うと、“あなた”を優しい眼差しで見つめた。しかし、その奥には鋭い光が宿っている。

そして、暗闇に響くは重く鈍い秒針の音――。


 

次回は、【 8月15日 】更新予定!

お楽しみに☆

inma7_booklet_F

2016年9月28日発売予定
ドラマCD「淫魔」
一途な誘惑・多情な誘惑
出演:柊三太
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