【ブーケ】禁断情事:芸能人とファン シナリオ公開 Part 7『立場』
- 2016年10月22日
- bouquet
11月発売のドラマCD「禁断情事:芸能人とファン」のシナリオ公開を更新♪
9日間連続更新6日目です☆
脚本を担当してくださった「正海春人」先生が小説風に書き換えて下さってますよ☆
芸能人とファン キャスト
松浦 駿:土門 熱
藤堂リュウ:八王子タカオ
屋良:ワッショイ太郎
鴇田:バンジョー鯉乃助
清河:二階堂 剣
■Part7『立場』
静寂は突然終わりを告げた。公園前に停まった黒塗りのセダン。そこから降りてきたのはスーツ姿の男性。松浦さんはその人を見るとブランコから立ち上がった。
「連絡がつかないと思ったら、こんなところにいたんですか」
「……屋良さん」
この人も事務所の関係者なのだろう。私には目もくれず、真っ直ぐに松浦さんは見据えていた。眼鏡の奥の瞳は冷たい印象を与えて、私は静かに息を呑んだ。
「台本を置いて帰るなんて……何を考えているんです? せっかく藤堂さんを抑えて主演が決まったというのに……」
「……っ!」
「駿……」
「別に何も……たまたま忘れたんだよ。それに、リュウのことは……関係ないだろ」
松浦さんは屋良さんから視線を逸らした。私は座っていたから見えたけど、その表情は辛そうに歪んでいる。今日は初めて見る表情を何度も見て、同じように胸が締め付けられていたけど、今はただ苦しかった。松浦さんが傷ついているのがわかったから。
「はあ……まあ、いいでしょう。この時間とはいえ、誰が見ているかわかりません。近いですが送ります。車へどうぞ」
「いい。歩いて帰れる」
苛立ちを含む松浦さんの声に屋良さんは静かに頷いた。そして、冷たい瞳が揺れて――。
「それで、そちらの女性はなんですか?」
「この人は……」
松浦さんは私を庇うように立つ。
「俺がいつも通ってるカフェの店員さん。テイクアウトしたものを俺が忘れて……それで、追いかけてきてくれて、ここで受け取っただけ」
私は慌てて立ち上がった。私の意思でここに来たのに、これでは全部松浦さんの責任になる。けれど松浦さんは小声で自分に任せるように言った。私と松浦さんの様子に屋良さんの目は険しくなる。
「……本当に店員さん、なんですか?」
「ああ」
「…………」
はっきりと返事をした松浦さんを屋良さんは怪訝そうに見る。
「まさか、あなたの立場は知られていませんよね?」
「腕、離せよ」
「どうなんですか?」
「だとしたら? 何か問題でもある?」
腕を掴まれていた松浦さんは屋良さんの手を振りほどいた。
「本気で言っているんですか? 一体どういうつもりです」
「どうもこうもない。芸能人の俺にだって、プライベートで行きつけのカフェくらいあっても不思議じゃないだろ」
「もちろん行く店のことまでとやかく言う気はありません。でもそれは、自分の立場が一般の人とは違うということを弁えた上でのことです」
「……テレビに出てるってこと以外は普通だよ」
「もし本当にそう思っているなら、立場を理解していないということです」
「俺は俺だ……。そんな特別じゃない……」
松浦さんの小さな訴え。けれどそれが屋良さんに伝わる様子はない。呆れながら話しを切り上げて、屋良さんは車に戻っていってしまった。
元気がなかったのは間違いじゃない。松浦さんの話したかったことが何か、少しだけわかった。けれど私はただの一般人で、社会経験だってまだまだ浅い。無責任なことを言ってはいけないという自覚もある。結局何もできないのだ。
その日、私は歯がゆい気持ちを抑えて最後に一言だけ松浦さんの背中に声をかけた。ただのカフェの店員として。「またお待ちしております」と。
今回の更新はここまで!
次回の更新は【 10月23日(日) 】!
お楽しみに☆
2016年11月30日発売予定
禁断情事:芸能人とファン
出演:土門熱 ほか
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